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◆ 日本におけるペンギン ◆

●日本に紹介されたペンギン

  初めて日本国内の文献(ぶんけん)にペンギンに関することが記されたのは、江戸時代の儒学者(じゅがくしゃ)・新井白石(あらいはくせき:1657~1725)の『菜覧異言(さいらんいげん)』で、「ペフイエゥン」と書かれている。
  その後、『堀田禽譜(ほったきんぷ)』に紹介されたペンギンの剥製(はくせい)の写生には「ピングイン」との表記(ひょうき)がある。
  『菜覧異言』は世界地誌(せかいちし)に関する研究成果(けんきゅうせいか)をまとめたもので1713年の刊行(かんこう)。『堀田禽譜』は江戸幕府(えどばくふ)の若年寄(わかどしより)を42年間つとめた堀田正敦(ほった まさあつ:1755~1832)が編纂(へんさん)し、江戸時代の博物学(はくぶつがく)を愛好する大名(だいみょう)が製作した図譜(ずふ)のことである。

 1794年に刊行されたが追加を繰り返し、現在伝わっているのは1831年刊行のものと思われる。堀田正敦は、すぐれた鳥類学者(ちょうるいがくしゃ)でもあった。

  明治10年に発行された、文部省の教科書『具氏博物学(ぐしはくぶつがく)』では、初のペンギンの漢字である「"企鵝(ペンジュン) が作られて表記された。具氏は本を書いたグードリッジのことである。(中国ではこの字でペンギンを表しているが、江戸時代末期に日本から取り入れた表記と思われる。)
  また、その立ち居ふるまいが人間に良く似ていることから、「人鳥(じんちょう)と表記されたこともあった。


●日本はペンギン飼育大国(しいくたいこく)

 野性のペンギンは南半球にしかいないが、北半球にはもちろん飼育されているペンギンがいる。

 日本には11~12種、約2500羽が飼育されており、世界中の飼育されているペンギンの4分の1を占め、世界最大のペンギン飼育大国になっている。

 中でも、絶滅(ぜつめつ)が危惧(きぐ)されるフンボルトペンギンは、野性の状態で約13000羽だが、日本ではその1割近い1200羽以上が飼育されている。 ただ、生き物のことゆえ、総数や種数の流動(りゅうどう)があるのは当然である。
  初めて生きたペンギンが日本にもたらされたのは、記録上では1915年(大正4年)に上野動物園にやってきたものが最初、ということになっている。


●ペンギン好きの日本人だけど・・・

 世界的に見ても、日本人の「ペンギン好き」は群をぬいている。ただどうも日本人の場合は、純粋(じゅんすい)に「ペンギン」が好きというよりも、外見上やしぐさのかわいらしさやひょうきんさを、必要以上に見いだしていて感情移入(かんじょういにゅう)しているのではないでしょうか。
  世界最大のペンギン飼育国(しいくこく)で、キャラクター商品も多く、一過性(いっかせい)のブームでなく普遍的(ふへんてき)にペンギンがもてはやされるわりには、ペンギンの研究も研究者の数も少ないのが現実です。
  動物学としてのペンギン本も、たいていはいつの間にか絶版(ぜっぱん)になってしまい、数少ないそのような良い本も現在ではどんどん手に入らなくなってしまっているのは残念です。キャラクター商品や写真集、絵本などはそれなりにあるようですが、「かわいい」部分だけのペンギンがこの先もひとり歩きしてしまいそうです。

 自分がペンギンの絵を描いてみようと思い立って、イメージだけではなく「ペンギン」そのものをちゃんと調べてからにしようと思ったのも、いろいろな外見の種類があるのに、イラストなどでえがかれているのはイメージ先行(せんこう)で、妙に擬人化(ぎじんか)されたり独特(どくとく)のペンギンになっているものが多く、またあまりにペンギンのイメージが「かわいい」にかたりすぎていて、そのまま自分も何も知らずに描いたら、単純(たんじゅん)な「かわいさ」をうったえるペンギンになってしまうだろうと思ったからです。まぁそれでも、結果的に「かわいい」と言われる絵になったのですが、「知る」ことで「かわいい」だけではない、生物としてのペンギンの面白さ、魅力(みりょく)にとりつかれたのは事実です。


 確かに知れば知るほど「かわいい」という感情移入も増してきますが、それはそれ以前に単純に姿形でかわいいと思っていたのとはかなり差があります。それまでも、生物学や鳥類にも興味はあったけど、擬人化したペンギンキャラにはほとんど興味はありませんでした。だから、そういうキャラクター的なイメージをかぶせられたペンギンをかわいいと思うことは少なかったのですが、ペンギンそのものをよく知るようになってからは、生物として魅力的でかわいいという気持ちが強くなりました。 それまでは、南極やその近辺に生息(せいそく)しているらしい事やいろいろな外見のやつがいることは知っていても、まさか赤道直下(せきどうちょっか)に生息しているペンギンがいるなんて思いもよらなかったし、これだけ大きさや生活にはばがあるとも思っていませんでした。
  『ペンギン、日本人と出会う』(川端裕人著 文藝春秋刊)で著者(ちょしゃ)は「ぼく自身野生のペンギンの写真を撮影(さつえい)することがあって、そのたびに思うのは、彼らは眼光鋭い(がんこうするどい)補食動物(ほしょくどうぶつ)で、対峙(たいじ)した時の印象(いんしょう)は「可愛い」ではなく「怖い」ですらある。キュートだと感じるのは、彼らがヨチヨチ歩いている時に限られる」と述べています。

 欧米(おうべい)ではペンギンを「知る」という努力がなされているのですが、日本ではほとんど「かわいい」で終わってしまっている感がいなめません。また先述の『ペンギン、日本人と出会う』には、日本のペンギン学の草分け(くさわけ)である青柳昌宏氏について、次のような記述(きじゅつ)もあります。
「青柳昌宏は、晩年、『可愛いペンギン撲滅運動(ぼくめつうんどう)をしなければ』と冗談(じょうだん)めかして言っていたという。ペンギンが『可愛いだけではなく、実は生き物としてすごいんだ』ということを言いたかったのだとぼくは理解している。」
これは非常によくわかる。研究者でない自分でも、姿形だけをかりて、かわいいキャラクターが氾濫(はんらん)しているのは、あほくさいと常々感じているし。

  このサイトを訪れた人の中から、ひとりでも多くのペンギンを研究する人たちが出てきたらうれしいかぎりです。ペンギンの飼育に実績(じっせき)があり世界有数のペンギン好きの日本が、絶滅危機(ぜつめつきき)のペンギンを救う役割を期待されている部分もあるのです。


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